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機能的消化管障害について 心療内科より

患者さま

 〈機能性消化管障害について―心療内科の立場より〉

 皆さんこんにちは。宇治川病院で心療内科を担当しております宋と申します。

当科では、精神疾患は勿論のことですが、その発病と経過に心理的因子の影響が認められる、いわゆる心身症もその診療対象としております。

 心身症は身体のあらゆる領域に出現し、多岐にわたっております。例えば、循環器系の高血圧や呼吸器系の気管支喘息、内分泌代謝系の肥満や糖尿病、神経系のめまいや知覚異常、皮膚系のアトピー性皮膚炎、泌尿器系の神経性頻尿などで、これらはどれも古典的で有名なものですから、皆様方の中にもご存知の方は多いと思います。

 ところで、今回は、それらの中で、特に最近関心が高まっている消化器症状を特徴とする一群の障害についてご紹介したいと思っております。消化器症状というと、慢性胃炎や胃潰瘍などがすぐ頭に浮かぶと思います。確かにそれらも心身症の代表的なものですが、これらは実際に胃に器質的な変化が生じており、内視鏡などの検査により容易に検出することが可能なものです。ところが最近消化器症状が慢性あるいは再発性に持続する一方で、その症状が通常の臨床検査で検出される器質的疾患によるものではないという特徴を有する障害が増えてきているのです。それが今回特にご紹介したいと思っている障害群なのです。 

 それらは、器質性(細胞や組織に実質的なダメージがあり、検査で検出可能)ではなく、機能性(細胞や組織にダメージはないが、働きに狂いが生じて症状が出る。検査では検出できない)であるということで、機能性消化管障害と呼ばれております。

この代表格としては、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群があげられます。

 ディスペプシアとは英語で消化不良・胃弱のことで、心窩部痛、胃やけ、吐き気などを特徴とする胃の不調を意味します。

機能性ディスペプシアに関しては、以下の因子が関与しているとされております。

①消化管運動機能異常(胃適応性弛緩障害、胃排出障害) ②内臓知覚過敏

③心理社会的因子 ④生活習慣

主な症状としては、

①食後膨満感 ②早期満腹感 ③心窩部痛(上胃部痛) ④心窩部灼熱感などがあげられます。

過敏性腸症候群に関しては以下の因子が関与しているとされております。

①腸内細菌 ②粘膜炎症 ③神経伝達物質(セロトニンなど)

④内分泌物質(ストレス関連ペプチド) ⑤ストレス ⑥ 心理社会的因子

主な症状としては、

①腹痛  ②腹部不快感 ③便秘 ④下痢 ⑤便秘と下痢の反復交替、などがあげられます。

 これらの障害は、苦痛はあるものの器質性ではないため通常の検査では異常が検出されず、原因不明として当科へ紹介されてくるケースが多いのです。

特に認知症の患者様では、自分の言葉で症状を訴えることが困難なため、食思不振や

食事拒否の形で現れることが多いようです。認知症の患者様で原因不明の食事拒否などが出現し、検査などで異常が検出されなかった場合は、この障害を疑ってみる必要があると思われます。又、若い人の場合、この障害による食事拒否や食思不振が出現したとき、摂食障害と間違えられることがあるため注意が必要です。

 

さて治療ですが、

①第一段階 まずメインの症状である消化器症状をおさえる薬剤の投与  

②第二段階 上記薬剤に加えて、抗不安薬や抗うつ薬などの精神疾患に対して使用される薬剤の追加。

③第三段階 重症の場合は、それらの薬物治療に加え、精神療法その他の更なる精神科的関わりが必要となります。

 ところで、最近薬物治療のみによっては著明な改善が見られず、長期にわたって精神療法などの精神科的関わりが必要な難治例が増えつつあるとの報告がなされております。その背景として、競争社会における対人葛藤の増強や、スマホやネットの普及に象徴される情報化社会における対人関係の希薄化などの心理社会的因子、対人葛藤の軽減・回避を目的とする「疾病への逃避」という心理的因子などの関与が指摘されたりしております。しかし、原因に関してはいまだ不明な点も多く、今後の更なる究明が待たれるところです。

 以上、今回は心身症の中でも消化器症状を呈するもの、特に器質性変化を伴わない、最近注目の機能性消化管障害について簡単に紹介させていただきました。参考にしていただければ幸いです。

 

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